願兼於業(がんけんおごう):人間革命


「妙法」の仏法哲学とは、己の生命で理解できるか出来ないか、そこから全てを開くことが出来る。

『新・人間革命』開拓者から、そのまま転載いたします。

■『新・人間革命』開拓者より

 伸一は、微笑を浮かべて言った。
 「大丈夫、信心をしていく限り、必ず幸せになれます。そのための仏法です。それに、あなたが今、不幸な目に遇い、つらい思いをしているのは、あなたにしかない尊い使命を果たすためです。宿業なんかに囚われて、惨めな気持ちになっては、一切が負けです

 婦人は不可解な顔で伸一を見た。彼女は、紹介者の学会員から、夫と死に別れなくてはならないのは、過去世で罪を犯し、悪い宿業を積んだからだと教えられてきたのである。

 確かに仏法では、人に悪をなしたことによって、悪の報いを得、不幸な人生を歩まねばならないと説いている。しかし、それだけでは、人間は過去世の罪などわからないだけに、茫漠とした不安をいだきながら、罪悪感を持って生きねばならないことになる。また、運命はすでに定められたものとなり、人間を無気力にしてしまうことにもなりかねない。

 日蓮大聖人の仏法は、こうした表面的な因果応報の枠を突き抜けて、根本の因果を明かし、久遠元初の本来の清浄な生命に立ち返る方途を示している。その方途が、地涌の菩薩の使命を自覚し、広宣流布に生きるということである。

 伸一は言った。
 「仏法には、願兼於業ということが説かれています。これは、仏道修行の功徳によって、幸福な環境に生まれてくるところを、自ら願って、不幸な人々の真っただ中に生まれ、妙法を弘通するということです。

 例えば、元々女王のような何不自由ない生活をしていた人が、信心して幸せになりましたといっても、誰も驚きません。しかし、病気で、家も貧しく、周囲からも蔑まれていた人が、信心をすることによって幸福になり、社会のリーダーになれば、仏法の偉大さの見事な証明になります。みんなが信心したいと思うようになるでしょう。

 貧乏で苦しみ抜いた人がそれを乗り越えることができれば、生活苦に悩むすべての人に希望を与えることができます。また、病気に悩んできた人が元気になり、健康になれば、病苦の友の胸に勇気の灯を点すことができる。さらに、家庭の不和に泣いた人が和楽の家庭を築きあげれば、家族の問題で悩んでいる人たちの模範となります。

 同じように、ご主人を亡くされ、しかも、言葉も通じない外国の地で、あなたが幸せになり、立派に子供さんを育て上げれば、夫を亡くしたすべての婦人の鑑となります。信心をしていない人も、あなたを慕い、あなたに指導を求めに来るようになるでしょう。

 つまり、苦悩が深く大きいほど、見事に仏法の功力を証明することができる。宿業とは、使命の異名ともいえるんです。

 私も、貧しい海苔屋の息子です。病弱で胸を病みながら、戸田先生と共に事業の倒産の苦しさも味わってきました。人生の辛酸をなめてきたからこそ、民衆のリーダーとして、こうして広宣流布の指揮がとれるんです」

 婦人は、何度も頷きながら、話を聞いていた。参加者の顔に、次第に赤みが差していくのがわかった。皆、苦労に苦労を重ね、日々あえぐように生きてきた人たちである。

 伸一は、テーブルの上に置かれたコップの水を飲むと、一段と力を込めて言った。
 「皆さんは、それぞれの事情から、たまたまこのブラジルにやってきたと思っているかもしれない。しかし、そうではありません。地涌の菩薩として、ブラジルの広宣流布のために、この国の人々を幸せにし、ここに永遠の楽土を築くために生まれてきたんです。いや、日蓮大聖人に召し出された方々なんです。

 この偉大なる地涌の菩薩の使命を自覚し、広宣流布に生きる時、胸中の久遠の太陽が輝き、過去の罪障は露のように消え失せ、大歓喜と幸福の悠々たる人生が開かれていくんです。

 あなたの苦しみも、仏法の深い眼から見れば、本来は富裕な大女優が、悲劇のヒロインを演じているようなものです。家に帰れば、何不自由ない生活が待っているのと同じです。しかも、人生劇場の舞台の上でも、ハッピーエンドになるストーリーなんです。

 心配はいりません。必ず幸せになります。私が断言しておきます。大女優が悲劇のヒロインを楽しんで演じるように、あなたも、堂々と、その悲しみの縁から立ち上がる人間革命の大ドラマを演じてください。

 人は皆、人生という原野をゆく開拓者です。自分の人生は、自分で開き、耕していく以外にありません。信心というクワを振るい、幸福の種を蒔き、粘り強く頑張ることです。広宣流布のために流した汗は、珠玉の福運となり、永遠にあなたを荘厳していきます。どうか、ブラジル一、幸せになってください」

 伸一が話し終わると、婦人から「はい!」という明るい声が返ってきた。
 期せずして、拍手がわいた。それは、共感の拍手でもあり、婦人の発心を祝福する拍手でもあった。

下線太字は、こちらの判断で引かせていただきました。


◇小説「新・人間革命」は、【人間の機関紙・聖教新聞】 に連載されています。

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